「さよならピアノソナタ」2巻(杉井光/メディアワークス)

さよならピアノソナタ〈2〉 (電撃文庫)

 出来のいいバンド小説読んでると、だんだん歌いたくなってくるのがクセモノですね。
 駅のコンコースで手すりに腰かけながら読んでたんですが、ひとりごとのつもりで歌ってた即興自作鼻歌が以外に大きな声だったみたいで、人目を集めてしまったりして。ああ、ああ。

  • 真冬は帰国済みで民音に入部済み。先輩からデビューライヴの日程とそれに向けた合宿計画が発表される。
  • 真冬は、直巳にくっついて民音にいるだけの自分なんかが……と惑って、合宿には行けないと。直巳は、合宿にくれば民音にいる理由が見えてくるかも、という言葉で釣って、真冬を合宿に誘い出すことに成功。
  • 真冬の逆襲。直巳こそなんで民音に入ったのか? いるのか?
  • 先輩のターン。弱い部分、本音の部分を直巳にさらしたのだが、そこを真冬に見られてしまう。真冬は先輩のモーションを真に受け、自分は直巳を民音に入れるための口実だったと思い込む。
    • 直巳を先輩に取られたら、やっぱりバンドにいる意味がないと気づく。(加入意味思考の原点回帰)
  • 真冬、ライヴリハーサルをすっぽかす。本番当日もギターを持ったまま家出。
  • 直巳は真冬を捜し出し、自分だって真冬を引き止めるためにベースを練習したしバンドに加入したんだ、と告白する。真冬は直巳の動機、そして自分自身の動機も受け入れ、ライヴに、バンドに参加する。

 バンドに参加してる動機が、キレイゴトなんかじゃない、恋愛がきっかけなんだと相互に自認しあう話、なんかな。
 まあべつにオイラはバンドやりだした動機が「モテたい」だったとしても気にはしませんがね。だいたい昔、バンドブームというのがあって、あれはなんでブームになったかといえば、それがカッコいい、モテる、という価値観が日本中にあふれたからなんですが。
 清廉潔白な動機で組まれたバンドのほうが名曲出すかって言われたらそんなことはないしね。
 でもこの年頃の子はまだ抵抗あるのかもな、恋愛動機でバンドやりだしたってこと。だからこの話は成立しうるのだし、真冬の(行動はともかく)心理には納得できるのだし。
 でも千晶だけは、バンドの結束>恋愛だろ、という正統派の主張・説得をしているんだよな。個別の感情は置いといて集団の規範下に入れよ、という。このへんは彼女が体育会系であることと不可分ではないんだろうけれど。でもだいたい、バンド内の恋愛で揉めたらそのバンドは解散するような。
 真冬の葛藤に対する同意ができたからこそ、読んでてずっとイライラしっぱなしでしたね(笑) いやあ、鈍感は罪ですね。女の敵で、非モテの敵だ。
 この恋愛至上主義がまかり通っている現代日本で、ティーンエイジャーの恋愛の機微を描いたフィクションだって石ころのごとくあふれかえっているなかで、あれだけ鈍感というのは奇跡に近い。そういうフィクションに触れてこなかったってことだからね。うん。


 先輩のターンはそのうちやってくるだろうな、と思ってました。でも、確かにああいうギャップ萌えというか、意外な人がしおらしさを見せてうんぬんというのはベタベタなんですけど……なんだろ、あくまで個人的なんですが、そういうウェットな感じにはしてほしくなかったかもしれない。あっけらかんとしたまま、素直クールキャラのようにからっと愛を語るみたいな。
 でもまあそれだと100%変人になるからなぁ。そして変人とは恋愛できない。オイラだと4角は実力的に無理なんで、ひとりは変人にしてしまうんでしょうけれど。