「イリヤの空、UFOの夏」3巻・4巻(秋山瑞人/メディアワークス)

イリヤの空、UFOの夏〈その3〉 (電撃文庫) イリヤの空、UFOの夏〈その4〉 (電撃文庫)

 2巻を読み終わってから実に5年ほども放置し続けてました、はい。
 その理由は、鬱展開だという情報をキャッチしていたからなんですが。あと、ナジミスト的に噴飯ものの展開でもあるとか――いやそっちはそもそも2巻の段階で予測できたことではありますが。ほんとに浅羽のナジミスルー能力は万死に値すると思う。晶穂が伊里野と打ち解けちゃったのでドロドロ修羅場にもならなかったし。期待してたのに(するなよ)


 で、同じく長々と積んでた鉄コミ読破の勢いを駆ってなんとか突撃してみたんですが……はぁ。
 あのね、いまだいぶ自分を抑制してキータッチしてます。そうでないと、イタい自分語りしそうになってしまうので。
 こんなに中高時代の自分を読んでて掘り返されるとは思いませんでしたよ!
 鬱とかハッピーエンドとかの次元は超えてますよね、これ。あえて言うならハードヒットってところでしょう。黒々としたカタマリが勢いよくガツーン、ガツーンと当たってくる感じ。
 そうしてオイラたちも傷を負って、かつてはひしひしと感じていた「無力感」の感覚を思い起こさせられるんですが。(いや、いまも無力感はずっと持ってますけど。量的には、誰かを殺してでも環境(世界)を変えたいとまで思いつめてたあのころのほうが確実に多い)
 リアリスティックに無力な少年の姿を突きつけられて。ほんとに苦しかったです。河原で洋物のエロ本でオナニーしたり。焦燥から八つ当たりしてキレたり。極めつけはラスト近辺の榎本の策謀ですか、あれは感情移入読書派にはキツかったと思いますよ。結局、ひとりの力で立ち向かおうとしてもどうにもならないという。


 セカイ系評論の文脈でよく名前が出てきてたけど、オイラはセカイ系という印象は持たなかったですね。「集団正義」と「個人の幸福」の葛藤、というものを指してセカイ系と言われるならそれは違うと思うし、そういうストーリーの枠組みは昭和のころからあったわけで。集団が世界レベルにまで拡大してったのは確かに平成以降ですが。
 むしろ王道と呼べるんじゃないでしょうか。広く考えてこれ、通過儀礼の話ですよ。挫折を経験するという意味で。それがたまたま世界を左右する紛争と関わりがあって、だからセカイ系と言われてしまうんだろうけど。やってることは通過儀礼のひとつだし、だからやっぱり王道、正統派の「ひとつの夏の物語」、なんじゃないかなぁと思うのですが。