「ユリイカ」(青山真治/角川書店)

ユリイカ (角川文庫)

 三島賞受賞作品。角川で初めて純文の賞を取った作品であるという小ネタもありますが、もっと気にしなければならないのは、この話が映画のノベライズであるということ。映画監督本人が書いたものということで、いま現在使われている「ノベライズ」という単語とは意味をやや異にするかもしれませんが……(オイラよりちょい上の世代だと、ガンダムのノベライズを富野監督自らが書いたケースなんかが思い出されるのかもしれない)
 ノベライズが三島賞かい、みたいなツッコミは当然出てくるわけですが、実際、映画の補足や解説でなくちゃんと小説それ自体として独立して読めれば問題ないわけです。そしてオイラは実際にこの話を独立したものとしてちゃんと読めた。なにせ本業が小説書きのかたではないので、やや文章は特殊というか、読みづらかったですけど。
 多くの読み手はおそらく「生き残ってしまった者の混迷、再生」とか「明確な筋などない殺人衝動」とかそういうほうに目がいくと思いますが、オイラは(社会学部だったこともあり)「地域社会性」に目がいきますね。
 見知った者同士が多く、噂はすぐに広まり、繋がりが強固で、それゆえ閉鎖性排他性を抱え、異分子となったものに対する視線は鋭く冷たく。
 主人公たちがあそこまでややこしくなったのも、そして最終的に再生を果たせたのも、ああいう地域社会でなければそうはならなかっただろうということが非常に見えてきます。
 バスジャックに巻きこまれて生き残っちゃったという、望まざるかたちで勝手に地域の異分子になってしまった主人公たちにとって、あの町はまさに檻のようなものになったのだろうと。
 途中で、都会的センスを持つ東京の大学生・秋彦が主人公たちの輪に加わることで、そこらへんの、彼らにまとわりついている「社会の黒い澱み」がぐーっと際立ってきます。
 つかこの秋彦、かなり重要な人物ですよね。彼がいることで客観的なポジションが作中に生まれ、おかげでこの話はたいした素養のないオイラみたいなのでもちゃんと読める一般性を獲得できている。やっぱ特異なだけじゃダメなんだよな。