「夏への扉」(ロバート・アンソン・ハインライン/早川書房)

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

 正月だからといって特別なことはしないと言ったオイラですが、やはり年末年始となるとなにか大作に挑みたくなるようなところはあり、今年はこれを読んでみました。
 「夏への扉」といえば、確かオールタイムSFベスト1位に選ばれたこともあったはずで、その点で言えば、客観的に充分「名作」と言われる資格のある話だと思います。だけどオイラは、ずっと以前にどこかでこのベスト1に苦言を呈していた記事を読んでいたことを忘れていなかった。
 つまり、そういう「疑いを含んだような」先入観で読みだしたわけです。
 ……で。読み終わったわけですが。
 まあ確かに、このストーリーで1位というのは違和感がなくもない。いろいろ、うまくいきすぎている感じはある。コロラドの機械が出てきたとき、オイラはさすがに引っくり返ってしまった。まさに「なんだなんだ、コールドスリープだけじゃないよって言ってくれればいいのに、バカっ!」という心境。
 もちろん、時間跳躍ものとして考えればぜんぜん面白い試みだったので、そこで読み捨てるとかそんなまねはしなかったですが。しかしオチの甘ーい雰囲気ときたら、なんというか、「みんなやっぱこういうのが好きか」と微妙な気持ちになったというか……ああ、いかんな俺。素直なハッピーエンドを素直に受け入れられなくなってる。なぜだ。エロ漫画は和姦でないとダメだといまでもちゃんと主張できるのに。小説に対する意識だけが変調してしまっているのか。なぜだ。
 とはいえ、ストーリーのことは置いといても、この話はちゃんとSFとして面白い。この話、アメリカで原書が出されたのが1957年、なんと半世紀前だ。半世紀も前にハインラインは1970年と2001年、ふたつの未来を同一作品内で書ききっているわけで。その挑戦心だけでも畏れ入るのですが、しかも書かれているテクノロジーのまた面白くてリアルなことといったら。
 この想像力には、21世紀東アジアの辺境に暮らすカスワナビとして、ただただ平伏するばかりしかない。あのテクノロジー群だけでも「20世紀を代表する名作SF」という冠に申し分ないんじゃないかと思います。


 惜しむらくは、リッキィの出番が少なすぎることですかね。オイラのロリコンエンジンはあの分量ではまったく満足できません。