「こんなに緑の森の中」(谷山由紀/朝日ソノラマ isbn:425776855X)

 肩を壊して野球名門校を中退した男の子が、挫折を吹っ切って再び前を向くまでを丹念に描いたジュヴナイル。谷山さんの話はこれ含め2冊しか読んだことはないのですが、2冊とも高校生の落ちこみがちな青春のうろを書ききっていて。それはとても痛々しいんだけど、でも絶対に忘れてはならないことなんだなぁと、おっさんになったいまでは痛切に思います。特に親子の対話、向かい合わんとする親と子の会話がすばらしい。
 人の心を読み取って変貌していくアパートという小道具の描写も、なかなかうまく絡ませていますし。
 夢や望みを追うことはたいへんで、だからこそ途中でどうしようもなくなって折れてしまうことだって多いんだけど。それでもその「追いかけていた時間」は、人生のなかで無駄な時間なんかじゃなかったんだって、オイラもいつか、胸を張って言えるだろうか。
 これほどの書き手が、たった3冊きり出しただけで、ここ8年、商業の舞台から姿を消してしまっているのは非常にもったいなく残念なことだと思います。同人では活動してらっしゃるそうですが……ご本人の意志の問題なのかなぁ。