「氷菓」(米澤穂信/角川書店)

氷菓 (角川文庫)

 読了。現在すでに角川文庫から新装版が出ていて、上の書影もそれに準じたものだけど、オイラの読んだのは上杉久代氏のイラストが表紙を飾るスニーカー・ミステリ倶楽部版。いわゆる黒れk(検閲削除) まあ5年ぐらい積んでたわけで。ウチではそれぐらいのこと、珍しくなかったりしますが。
 率直に言って、面白かったです。自分にとってややクドいなと思える部分はありましたが、それらを押し流すだけの充分なジュヴナイルさがこう、ひしひしと紙から立ち昇ってきて。夏の暑い日、過去の謎を求めて少年少女が行動するというのはそれだけで絵になります。オイラにしては珍しく、実写的な映像が頭に浮かんだというか。
 求める過去ってのが1970年近辺のあたりってのもね。個人的にこの、学園闘争のあたりがオイラ好きなんですよ。発露するパワーと、静かな日常の折り重なりっていうのか。戦後昭和日本の象徴的時代をあげるとしたらここしかないという、そういうダイナミズムがあって。折木の青春についての煩悶と対比させるにはこの時代しかないんですよ。
 その一方で、やたらにあの当時を賛美しているわけでもないんですよね。「氷菓」の真意に象徴させているように。そこのあたりのバランス感覚には唸りました。小説を書く上で必要な「客観性」というのが、オイラまだまだ欠けているのでね。
 ……それはそうと、ラスト近辺の竹宮恵子ネタはどれだけの人間がわかったんだろう。まだ竹宮さん読めてもいないのに気づけたオイラの漫画知識の在りかたはわりと変だと思いますが。……ああ、読みたい漫画が山のようにある。あるのに。