「ふわふわの泉」(野尻抱介/エンターブレイン)

ふわふわの泉 (ファミ通文庫)

 化学+学園小説だと思って読みだしたら、一気に宇宙にまで出てファーストコンタクトまでやっちゃってました。
 うーん。いろいろな意見はあるんでしょうけど、俺はこの速度感というか、テンポの速さは好きですよ。重厚にならないために、こういう感じになってると思うんですけど。最近コメディ志向が付き始めた者としては、このリズムのほうがむしろありがたい。
 まあトントン拍子に進みすぎという感想もわからなくはないんですけどね。
 基本的には、「理科の楽しさと可能性」について、若年者に魅力的に伝えんがために書かれた本――だと思います。この話の根底にあるのが、そういう「理科愛」みたいなもんじゃないかと感じたので。ベンゼン環という敵を前に高3で理系から落伍した自分も、ひさびさに子どものころ信じてた科学万能の夢を思いだしたような気分になりました。
 この話は星雲賞を取ってるわけですが、それはきっと、そういう心のノスタルジックな部分を多くのSFファンもまた刺激されたから――ではないでしょうかね。