「食前絶後!!」(ろくごまるに/富士見書房)

食前絶後!! (富士見ファンタジア文庫)

 12年前にこの世に生を受けた、問題作。巻末解説において賛否両論あったと書かれていますが、それがなるほどと頷ける怪作。当時ネットはまだ発達していなかったけれど、もしネットがあったらおかゆまさき的な扱いを受けていたかもしれない。
 固有名詞や実在地名の多用、全編を貫く大阪テイスト(キャラの苗字が大阪の地名だし)、アクションシーンでは句読点を全部省くという文体を駆使し、極めつけが「調味魔導」というアイデア。いや、五感から拡大してあれこれ能力をうんぬんというネタ自体はけして珍しくはないのだけど。そのなかであえて一番面倒くさそうな味覚に焦点をあてて仕上げたのだから、さすがとしかいいようがない。
 この話もやっぱりキャラ勝負で勝ったようなところはある。主人公と幼馴染みの関係がね……よくある「素直になれない」系でもなし、かといって冷えてるわけでもなく、こう、ちょうど相棒みたいな感じで。でももしかしたら、こんなふに憎まれ口を叩きあいながら、こいつら将来なぁなぁのまま結婚しちゃったりするんじゃないだろうかという期待も抱かせるような。不思議な男女関係というか。