「奇蹟の表現」(結城充考/メディアワークス)

奇蹟の表現 (電撃文庫)

 最近、ここ2年で最も積読の消化がいい感じです。逃避行動なのだろうか。自分でフィクションを考えようとすると、能動的な思考が求められ、そしてそのたびにためらいの力が生じて思考が進まなくなってしまうのですが。ただ本を読むだけならわりと受動的にできますからね。ためらいはあっても、とにかくいったんページを開いてしまえばあとは押し流すようにしてフィクションに耽溺できる。


 それはさておき、本作の話ですが……流れ的には、妻子を抗争の巻き添えで殺された元ヤクザが、修道院で頑なな信仰を持つ少女と会って、少女のまっすぐさの前に熱さを取り戻す――という。
 主人公は枯れきった大人なので、修道院を狙ってきたヤクザと最初取引をする。ある程度の痛手を払うかわりに、もう手を出してくるな、という。だけど少女は純粋なので、払った痛手を取り返しにヤクザのとこへ勝手に行っちゃうんですね。それで主人公は、自分の大人的対応が彼女に無謀をやらせたと気づいて、大人の責任として助けに行く=熱さを戻す、という。
 受賞できた理由を探すとするなら、ヒロインの少女の存在でしょうね。内面・思考はすべて教会の教えに基づいていて、それでいて信仰に頑なで、ブレがない。こういうキャラって、1本筋通っちゃってるので、見ていて気持ちがいいんですよね。書き手としても、「こいつはこう」って極端な筋を先に決めてしまうと、作者の代弁キャラになりにくくなって、書きやすい場合もあります。……というかまあ、電波系ヒロインってだいたい変な筋通っちゃってるんですよねぇ。ブレないから、まわりは振り回されるわけで。