「狼と香辛料」(支倉凍砂/メディアワークス)

狼と香辛料 (電撃文庫)

 某チャットで作者氏とすれちがったことをきっかけに、「ネットで評判よかったし、まあ買ってみるか」と軽い気持ちで購入。
 で、まあ、そういう期待があった(ありすぎた)ぶん、騒がれているほどの満足は俺は得られなかった。
 いや、ホロはよかったよ。めちゃくちゃ。たぶんこれが賞取れた決め手になったんだろうと確信できるくらい、いい。
 だけどね、どうもイベントに大きさがない感じがしたのよね。誤解を恐れず言えば、地味。それはべつに、金儲けのネタがラノベ的でないということではなくて、ようするにカタルシスの与えかたの問題なんですよ。ピンチ度が足りてないというか。流れのなかでそのままピンチになり、そのまま生き延びた、みたいな。ある意味あの切り抜けかたも、主人公側から見たらデウスエクスマキナに近いものがあるからねぇ。一応伏線は序盤にあるけど。主人公が絶対パワー解放するならともかく、非視点者がパワー解放するというのは個人的にうーんと思ってしまう。
 いやね、去り際を引きとめたあたりのやりとりとかは俺好きよ。俺には書けないという意味も含めて。でもねえ、なんか盛り上がらなかったというか。んー。若年層はこれをどう思ったかは気になるね。2巻の売れかた待ちか。
 似たスタイルだった「ダブルブリッド」といまちょっと脳内比較してみましたが……あれか、初期の距離感の設定が違うんだな、ダブリドとは。ダブリドはわりと遠いところからスタートしたけど、この話はそんな離れてはない感じ。面倒くさそうではあったけど。だからカタルシスが弱かったのかな?


 ホロのよさについて話をしておくと、いい意味での2面性を感じたですよ。主人公をおちょくったかと思えば、人恋しい表情を見せたりして。いまや記号化した様相のある「ツンデレ」だと、ツンが本当にただの照れ隠しにしかなっていないものも昨今珍しくないのですが、おちょくるってのはそれと比べると、相手に気を配っていないという点で非常にムカツき度が高く、充分デレ期とのギャップに耐えうる(苦笑)
 ……というのはまあ半分ネタとして、マジなことを書くと、ツンデレってのは一見二面性があるように見えますが、実質は「その人が好き」という一面だけで構成されているもんなんですよね。ホロに関してそのへん言うと、記号的な好きというものではなく、ちゃんと一個の人間として主観を持って、主人公のことを捉えようとしている。このへん、口で言うのは簡単だけど、いざ書くとなるとどうしてもキャラに役割を振ってしまうんで、なかなか俺のような人間には難しい……
 あと、当時の世相、社会、日常生活を機会あらば書こうとしていた姿勢もよかったですね。ファンタジー書くには思考力が足りてないと言われ、現在、現代モノのみを書いている自分としては、少しは見習いたい。


 文章については……hpのインタビューで、編集氏との打ち合わせのなかでかなり直させられたとの記述がありましたが……確かに上手くないです。というか、(こう言うと一部から異議を投げられそうですが)きょろと大差ないと思う。視点位置と情報開示しているラインがズレてる文がわりとあったし。*1あの特徴的な、〜のだ・〜のだった調も、どうなんだろう?
 それと、人物が思ったことを書きすぎというか、なぜそのセリフをその人は言ったのか、という理由を明かしすぎだったように思う。いかにわかりやすさを求めたのだとしても、まあ、もう少しわかりやすさ基準を難解に持っていっても若年層は理解できるんじゃないかと。ラノベを読むローティーンはそんなにバカではない、というのがオイラの自論。


 それはそうと、香辛料が最後にしか出てこない……タイトルなのにいいのか。

*1:逆に言えば、他でカバーできれば文章なんて受賞の障害にならないということだ。これはきょろへの私信ですが