「かのこん」(西野かつみ/メディアファクトリー)

かのこん (MF文庫J)

 もう2巻も出たというのにいまさら1巻の話をしたりする。あ、逆に2巻が出てるから、1巻をネタバレしまくりで語れるということもあるのかな? というわけで、未読の人は早々に立ち去ることをおすすめします。


 ギリギリまでisbnリンクを貼るかどうか悩んだのですが……想定される最悪の事態、そしてそれによって同時に閲覧者のみなさまにかける迷惑を考えると、どうしても踏みこめませんでした。
 平たくいうと、俺は逃げました。自分のやりかたを貫くことから、ね。軽蔑されてもしかたがない
*1けど、それでも俺はやることをやる。自分のために。
 ……そうよ、こういう分析って自分のためにやるのよ? 人が使ってる構成とかキャラの変化分量とか見て勉強するのですよ? うん。

  • ヒロインに呼び出されて告白される。
  • ヒロインから正体(妖怪)を明かされる→主人公の抵抗薄く、あっさり受容→さらに惚れられる。
  • ヒロインの弟との戦い(主人公の能力の提示)
  • 音楽室を爆破してしまう(秘密の共有)
  • 爆破の罪を喋ってしまいたい主人公と、明かしてほしくないヒロイン。「妖怪ハンターがいて、捕まっちゃうから」と理由を説明。
  • 番長一派(全員妖怪、ヒロインとは不仲)との出会い。
  • 勝手に勘違いされたあげく、それが元で怒りを買い、主人公は番長から決闘を申しこまれてしまう。
  • ヒロインの乱入。「妖怪ハンター」は嘘話だったと明らかになる。ヒロインは前科者で、次に犯罪を起こすと刑務所行きになるのだ。嘘の理由は前科者だと知られたくなかったから。
  • 主人公は、爆破は自分ひとりでやったことを証明するために、番長と戦うことにする。番長に勝てれば、力がある=爆破も可能と対外的に見られるから(決闘動機の完成)
  • 謎の能力低下に陥る
  • その原因が、好きな人に嘘をつかれたこととわかる。(能動的な恋心の自覚)
  • 番長をぶっ倒して、主人公とヒロインの絆が強まる。

 構成。ディテールが落ちきってないのは俺がその程度の実力(目)だからです。
 あ、その前にコンセプトについて語っておかないと。俺の見立てでは、「受身の恋が、能動(自覚)の恋に変わる、話」だと思います。
 で、話を戻すと。どの地点への着地を目指すのか、という動機の設定が不十分という感じ。ヒロインを刑務所送りにするのを阻止するため、というのはまあ在るんだけどね……なんというか、ムショ行きを決める監督官がいるのですが、そいつもう、ほとんど爆破はヒロインが主犯だって知ってる感じなんですよね。知っててなお、主人公の漢気に免じて見逃してやってるみたいな。世界観が平和すぎませんか。……いや、キャラコメとしてはそれぐらい平和なほうがむしろ正しいんだろうけどさ。生来のツッコミ屋としては言わずにおれません。俺ってキャラコメの読者に向いてないんだなぁきっと。


 そもそもその動機の登場も遅すぎる。全体の半分を過ぎてから出てくるというのはちょっと……逆に言えばあれか、「巻きこまれ型」の話を書かんとする上では参考になるということか?

主人公:押しに弱く流されやすいが、好きな人のためなら頑張れる優しい性格。
ヒロイン:妖怪であることに若干コンプレックス。とにかく愛一途な人。自分のマイナス要素を主人公に知らせたくないために嘘をつくなど、そのあたり非常に人間的。

 キャラ。変化量はパス。というかあえて言うほどのたいした変化はしてない。
 結論からいうと、この話の真の主人公はヒロインなんではないかと。「源ちずる」というヒロインの魅力を、少年の目を借りて伝えることに一番の主眼があるわけでして。だから第一章ではいっさい物語の動機を出さず、ただひたすら、豊満さとかおねいさんハァハァ的なヒロインの魅力を、スキンシップをふんだんに使ってあらわすという。
 で、それをやるためには、主人公がなんらか問題を最初から抱えてたりするのは、むしろ邪魔なんですね。なるほどなぁ、と思う。
 しかしここまで動機の出てくるのが遅い話を書く勇気は俺にはないぞ。まあなんだ、キャラの魅力を伝えるという方法で持って読み進めさせるというのもこの世にはあるってことで。というか第1章を読ませきるエネルギーとしてはエロパワーもデカかったんだと思うけど、面倒なので割愛。


 あとは、散々ネット各所で言われていることですが……主人公が惚れられた理屈が弱いかなぁ。巻きこまれラブコメが悪いとかそういうことではないんですけど。なんというか、巻きこまれだからこそそこはしっかりしてないといかんのでは、みたいな。
 あともっとバケモノ感の演出をしておくと、恋愛の障害としてうまく機能できた気がする。西野さんのことだから。たぶんわかった上でカットしたと思うけど。MFは価格を統一してるはずだから、ページ制限が結構キツいのではないかと。




 で、ちょっと文章面にも言及しておく。最初のページの書き出しに注目。

>ノックをするまえに、耕太はひとつ深呼吸をした。

 これ、視点者の動作から入ってますけど。実は読者を話に引きつけるテクニックだったりする。
 話を読むとき、まずみんな人名を探しますよね? 誰が出てくるのか/どんなやつが出てくるのか。そういうことを気にしている。で、それをいきなり1行目に出す。これで沸点の低い読者の過ストレスを回避。
 さらに動いていることも重要。動作というのは時間の経過していることを意味しているので、当然その先/その次が存在することを予感させる。これで読者を次の文章に進めさせることができるのだ。
 ついでに言うと短文であることも重要だったりする。詰めすぎの難解な文はよろしくない。
 ……ほとんど情景描写とセリフでしか始められない誰かはちゃんと参考にしよう。例えば俺とか。オイラとか。自分とか。




 あー、あと最後に、アレに言及しておかないといけないか。
 あとがきの謝辞のなかに、俺の名前を書かれてしまったことについて。
 正直、多少のショックがありました。自分の名前は、自分自身のみの力で世に出したいと思っていたので。誰かに先に書かれるのではなく、俺自身が著作者名となるもので出したかったので。背表紙にデカデカと載るのと謝辞記述じゃまだ差があるだろ、ということも言えるのかもしれませんけど……うーん。気にしすぎと言われればそうなのかもしれないのですが。
 結局は、まったく結果を残せてない自分の非力さの問題なんですよね。でまあこういう気持ちを持つと、また結果至上主義みたいな状態になって、書き急ぎ、失敗するんですけど。速い遅いという概念は振り捨てて、力を固めようと言ったのはどの口よ。




 さてと、このあと応募時原稿でも読みますか。
 応募時のと実際に本なったのとを比較するのも面白そうなんだけどね。さすがにしんどいからパス。

*1:2006-07-12、方針変更につき訂正