「針とオレンジ」(きづきあきら/ぺんぎん書房)

針とオレンジ (Seed!comics)

 同人時代の作品を集めた、第3短編集。
 これまで多くのきづき作品に触れてきたので、もう新たな衝撃とかはない。堪能する、という表現が適切な状態になっている。


 今回も主題は人間関係。もといコミュニケーション。そこにまつわる痛みやストレス、そしてそれを回避するのか/向き合うのか。ほとんどすべてのきづき作品はその周辺を歩いており、今回もその例に漏れていない。
 なかでも表題作「針とオレンジ」はそのあたりのテーマをみごとに描ききっている。互いに言葉の通じない日本人と中国人の少女が、直接の会話なしで関係を築き、破綻していく。本心でぶつかっていかない、上辺っつらなコミュニケーションを、「言葉が通じない、しかし相互に気持ちいい状態」と極化させることで表現し、主人公の少女の「本心でぶつかっていく」という最終的な決断を際立たせている。
 同時にそれは、本心でぶつかっていかない関係など、言葉の通じない関係でも築ける程度のものでしかないという痛烈な皮肉を秘めているんだけど。


 まあでも皮肉になったのはたぶん偶然でしょう。一方で、ぶつかりあうことを徹底回避していくような漫画なども描かれているわけだし。きづきさんは、コミュニケートに関する絶対の答え、正答というものは出してないと思う。むしろ様々な状況で、様々な個人(キャラ)が下す選択を、作者本人も面白がっているというか。一緒になって考えているというか。
 きづきさんは結論ではなく、状況にこそ関心があるんだと思います。




 それはそうと、子持ちだったことにはオイラも驚きましたけど、作者周辺サイトとか歩いてみたら、なんと最近第2子をご出産なさったらしい。再驚愕。ともあれおめでとうございます。