「SALVA ME」(紺野キタ/大洋図書)

Salva me (ミリオンコミックス)

 BLレーベルからの出版ですけれど、ガチの男同士の恋愛話は少なかった。むしろ紺野さんはBLというフィールドを利用して、ジェンダーとか性差のほうを描いてやろうとか考えてらっしゃるのではないでしょうか。そもそも平行で非BLの漫画も別の出版社から出してるわけだし。
 わりとBL的なノリの美少年漫画も楽しんで描いてらっしゃるようではあるんですけど。


 同性愛者ではないけど、女の子になりたくて女の子の格好をしている男の子の話は、なかなか興味深く読みました。
 特別の深い葛藤もなく、ただそうありたいからという理由で屈託なく女装し、やがて好きな女の子に自分を男の子だと認識してもらうために、女装を脱ぐ。そこにあるのは、一見すればイマドキ風味の性のありかたです。ジェンダーという枠組みを越えて、自分が気持ちよくなれるものを第一に考える。まわりもまた、そんな選択をする人々を責めたりせず、中身本位でもっととらえようと紙面から訴えかけてくる。
 ですが。この話のすごいところは、外装軽視・中身本位というテーマに話がとどまらないところでして。
 男の子は、自分は男の子なんだと好きな子に認識してもらうために、女装をとくのです。そこには「見られる自分」というものが確実に介在している。
 つまりこの話には、客観的主体の獲得というテーマもさりげなく配されているのです。単なる1テーマで話を終わらせていないところに、面白みを感じます。