「ストーリー」(戸田誠二/宙出版)
ショートストーリーを駆使して人間と向き合う漫画家、戸田誠二の三冊目の単行本。
戸田さんと出会ったのは本屋の片隅でした。大判の、マイナー出版社の漫画ばかりが寄り添っているところで、戸田さんのデビュー作は平積みされていました。
「漫画の衝動買い」有段者であるオイラは、迷いなくその日に買って帰りました。
けして、読んでカタルシスが得られる漫画じゃないんですけれど。オチだって、オチきってるのかわかんないものがけっこうあるし。
それでも、オイラとはやはり波長があいます。内面ぐるぐるの小説ばかり、それとは知らず書き続けてきたような男ですから。戸田さんの漫画も中身はぐるぐるが多いです。
さて、人間と向き合うというのはどういうことかと言いますと、暗部をごまかさないということです。戸田さんは人の暗部、人と人の関係・交流の暗部をごまかさない。ときに反発しあい、求めあい、また反発しあう人の身勝手さをリアルに描ききっています。
この漫画にはつねに破滅がつきまといます。暗部とは破滅の種です。暗部が剥き出しになればなるほど、破滅は近くなります。
破滅は誰の人生にも起こると俺は考えています。人がもっとも避けたいものが破滅であり、人がもっとも避けられないものもまた破滅です。築いてきたものは、どこかでがらがらと崩れます。
結局人は、100%相手の気持ちをわかったりはできないわけです。わかりあおうとする意識を傾けあっても、必ずどこか見えないところがでてくる。だから人はぶつかりあう。それがどうしても避けられない。
破滅が待っていると知りながらも、人は人と交わらなければ生きていけない。
――この矛盾に耐えられない人たちは、自分の部屋に閉じこもることを選ぶのです。ひきこもりとは、そういう人たちのことだと俺は考えます。社会的に死ぬことを選ぶかわりに、外の世界の激しい破滅から身を守るのです。それを脆弱だと言って叩くつもりはこれっぽっちもありません。彼らも社会的な死という、絶大な破滅のカードを引いているのですから。どの破滅がマシかという話にすぎないわけです。
人とぶつかりあっていくというのは、無意識に生きていると気がつかないものですけど、それほどのパワーを持っているものだと思います。
この本のなかで破滅した人たちは、再び立ち上がり歩みだしていきます。新しい自分となって。すべての人間があのようにうまく立ち直れるわけではありませんが……願わくば、なるべく多くの、現実世界でつまずいている人たちが立ち直れるように祈っております。