「神様のメモ帳」1巻(杉井光/メディアワークス)
杉井さんがブギーポップシリーズにであって影響を受け、その後投稿者として電撃一直線になったことは、受賞者インタビューでも語られている周知の事実ですが。
その(ブギーチルドレンとしての)杉井さんがついに商業で現れたな、という。や、原案抜きでイチから物語書けば、いままでの杉井さんが出てくるというのは当然かもしれませんが。
- ナルミ、彩夏と出会う。園芸部連帯。
- 居場所がなかった学校(学生)生活に居場所ができる
- 彩夏のバイト先で、アリス含むニー探連中と知りあう
- 彩夏の兄、トシの問題(失踪中)→ナルミ、トシと遭遇。トシはエンジェル・フィックス(ドラッグ、以下AF)をナルミに見せる
- 彩夏との齟齬→腕章製作で和解
- AFが街で問題になっていることの明示
- 彩夏の謎の投身自殺(一命はとりとめるも、植物化)→ナルミ鬱に
- ボクシング練習→身体の感覚を感じることで、「生」の実感を取り戻す
- 学校の温室でAFの原料になる植物が育てられていた疑惑浮上
- トシとAFの関係の背後に墓見坂なる男の存在が→ニー探連中、墓見坂捜索
- 捜索のために、ナルミ、AFを実際に飲む→ラリる、その後バッドトリップ
- 墓見坂のアジト襲撃。墓見坂、薬中で死亡。トシをぶん殴って、その身体感覚でナルミは薬の影響を払拭する
- 学校の屋上にしかけられていたものによって、彩夏の思慕がわかる
- ニー探サークルへの参加継続。人の輪のなかにいることの心地よさを知ってしまったから
相変わらず杉井さんの話はいまいち割りにくい……
基本的な筋はAF&トシ関連なんですけどね。ただ、その問題がはっきり出てくるまでが非常に遅い。つまり、物語のなかで積極的な動機の登場が遅い。一応その前段階では、トシの行方とか彩夏と和解したいとかの動機(気持ち)で引っ張っているので、退屈だとかそういうことはないんですけど。
ただ、墓見坂とか完全に小者ですよね。これはすなわち、そういう対決・決着に主眼がなかったということを表しているかと思います。
序盤はキャラの紹介で魅せている感じですよね。これはまあ、ライトノベルとしてはアリなんでしょう。
コンセプトとしては「生きる目標もなく居場所もなかった主人公が、「生」の実感と居場所を得る話」、なのかな。
明確な友だちのいなかった→ニー探の仲間を得た。
積極的能動的な行動がなかった→トシを殴ったり、自発能動的な行動が多くなった。
……見えやすい変化としてはそういうところか。
生きている感覚、というもののほうがむしろ、対決よりも特に強調したかったように感じられます。というのも、投身自殺のあととバッドトリップのあと、2回も主人公に対してそういう揺さぶりをかけている。
これは見ようによってはムダなリフレイン、構成の失敗ととられるかもしれませんが、オイラは強調のためのリフレインだったのではないかと思います。杉井さんは強調したいところは厚くしてくる印象もありますし。
ただ、ナルミの心理が最後までいまいちオイラ掴みきれませんでした。そもそもこの子、芯のある主張がないんですよね。瞬間瞬間でこうしなきゃああしなきゃという決断はできるし、人らしい葛藤もあるんですけど。
やっぱ彩夏に対する認識のさせかたかなぁ。自分に近づいてきた理由を「兄貴の代わりに更生させられそうなニートだったから」という思いこんでちょっと衝突するのとかはわりといいと思ったんですけど。
はっきり言って、男子高校生が女子とふたりきりでいるというシチュエーションに対して、あまりにも鈍感にすぎるんですよ。もっと意識しないと、オイラは同調できない。照れ、って言ったらいいのか。
このへんは趣味の問題なので、あまりやかましくは言いませんけど。
まあ最後にああいう仕掛けでもって(彩夏の思慕を示すことで)締める、ってことをするなら、もうちっと(彩夏に意識があったうちに)自覚的な面で揺さぶってほしかったなぁ、と。
あ、あとキャラクタにも触れておこう。
- アリス:ガチひきこもりの探偵でぼくっ娘
- テツ:スロプロでギャンブル狂のボクサー
- ミンさん:姐御肌、ラーメン屋なのにアイスのほうが美味い
- 少佐:ミリオタ、メカニック担当
- ヒロ:ヒモ、情報収集担当
- 四代目:実質ヤクザ、趣味手芸
あのですね。
正直、杉井さんがここまでカリカチュアチックにキャラクタをやってくるとは思ってませんでした。
人数はまあちょっとシリーズの1冊目としては多いかなぁという感じはありますけど。ベクトルの被っているキャラがひとりもいないので、キャパシティオーバーだなぁとか感じることはまったくなかったです。
しかし杉井さんといえばこういうキャラのカリカチュア化からは一番遠い人だと思っていたので……勝手な認識だったんだなと言われればそれまでですが(苦笑)、特に「ぼくっ娘」という、キャラクタの内面と積極的な関わりのない、わかりやすくて手っ取り早い「属性付け」をやってきたのがなにより意外でした。
でもだからこそ、逆に感心するところもあったというか。
こういうシリアスな話とカリカチュアキャラクターをどのように融和させていくかということは、ライトノベルの書き手にはある程度つきまとってくる課題だと思うんですよね。
その実例の一端が今回読めたということは、個人的にはよかったです。
アリスに関しては、唯一強弱、強いところと弱いところが見れたのがよかったですね。冷房ききまくりのモニタ室では倣岸なのに、ぬいぐるみと一緒でないと寝れない、外出もできない、その外出もいちいち青ざめてる有様。
ただ、えー、あえて火目との比較の話をしますが。火目においてはキャラの書き分けって「動機」で行われたいたんですよ。それはとりもなおさず、火目に選ばれるという目標/目的があったということ、ひいては国家・世界に対してどのようにしたいと思っているかということがあったからなんですが。
今作では、キャラの書き分けはアク付け/属性付けでもって成されている。
動機に寄ってキャラの書き分けができるのは、物語世界の中心にしっかりとした対象が座ってるときだけなんですよね。そして今作ではそうした書き分けがとられなかったということがイコール、この話には大きな対象が座っていなかったということの証左になっている。
動機の魅せるダイナミズムではなく、キャラクタのアクの強さ、そして掛け合いのなかで起きる化学反応を楽しむつくりになっているんですよね。
いやあ、キャラクタの書きかたひとつ見ても奥が深いですね。
あとね、やはり「NEETTEEN」のほうがよかったと思うのですよ。タイトル。
「神様のメモ帳」では、抽象的すぎて。
まあ、編集さんに反対されたのもある意味わかるんですけど。この話、連中の身分がニートじゃなくても成立するし、そもそも杉井さんがあとがきで定義している「ニート」は、現在一般に広まっている定義とはズレがある。
というか世間的定義と異なる定義を持ち出すというのは、オイラには怖くてできないな……
ちなみにドクターペッパーは飲んだことがないので、どれだけマズいのかというのがいまいち想像できません。関西でハズレの缶ジュースというと個人的に「ひやしあめ」なんですが(生姜が苦手なんです)、あれよりマズいのかな。