時津風騒動、いったんまとめ 〜そして尻尾は切られた〜

 昨日、時津風親方(元双津竜)が協会を解雇された。部屋持ち親方の解雇処分は史上初のことだ。
 批判を恐れず言うが、俺はこの処分、「まだ早い」と思う。
 このところのマスコミの親方追っかけまわしで焦点がぼやかされてしまっているが、今回の騒動において一番重要なことはなんだったかというと、事件、ならびに角界の稽古実態の真相究明だったはずで。
 それが充分なされていない段階での解雇は、「トカゲの尻尾切り」と言われてもしかたのないことだ。
 協会は親方、および兄弟子の刑事処分が確定するまではせめて待つべきだった。
 そしてその上で、北の湖も理事長職を辞するべきだった。


 協会が事態収拾を急いだのは、新弟子の獲得に支障が出るから、なんだろう。実際、この騒動後、入門予定だった子がキャンセルしてきたこともあったらしい。
 いまの協会にとって、新弟子は来てくれるだけでありがたい存在だ。若貴のころは寝てても来た新弟子は長期減少傾向で、今年の名古屋場所にはついに新弟子ゼロという事態に陥った。
 相撲部屋の経営には弟子が欠かせない。というのも、力士ひとりあたり186万円/年というお金が、力士養成費として協会から降りてくるからだ。若い力士を「米びつ」と呼ぶ部屋関係者も少なくない。
 だから、脱走した力士を部屋は必死に連れ戻す。


 連れ戻された力士に対する制裁、というのは実は角界では伝統的に行われたきたことだったりする。
 俗に言う「かわいがり」だ。
 もちろんバットやビール瓶は論外だが、基本的には「ぶつかり稽古」を課したり、音のわりに痛くない竹刀でへばってる体を叩いて起こさせたり、水を顔に吐きかけたり、ということが行われる。
(去年あたり、Youtubeで昭和50年代の二子山部屋のかわいがりの様子をとらえた動画があったのだが、今回それを貼ろうとしたら残念ながら消されてしまっていた。著作権者のNHKには、クローズアップ現代かなにかであの動画を使って角界の稽古実態を報道してほしいところである)
 ただし角界は閉鎖的でその上ガチガチの縦社会なので、なかではもっとひどい苛烈なことが行われている可能性は高い。それでも一応それらは「稽古」の一環、とされるので、若い力士たちは司法に訴えるようなことはこれまでしなかったし、できなかった。


 もちろん、いまの子どもたちには相撲部屋の集団生活、普段からもキツい稽古、体育会系の縦社会(それにより生じるイジメ)、そういうものになかなか馴染めないところはあると思う。
 だから脱走はなくならないし、入門も増えない。
 一方で、強くなるためには激しくキツい稽古をしなきゃいけない、という部分もある。実際、キツめの稽古を課されてる風景を見ると、親方による弟子イジメのようにも見えてしまうところもある。素人には負荷の充分量がわからないので、境目の見極めは難しい。罵声も飛ぶし。
 あるいは、そういう加圧的な環境下に常に置かれているせいで、兄弟子たちに陰湿なイジメを行ってもいいんだという気分が生じているのかもしれない。土俵の内と外との分別ができてない未熟な若者であればそういうことはありうる。親方にしたって、稽古の外、普段の生活でも加圧的な対応しかしてない人もいるだろう。
 結局は外部の目がもっとないとダメなんだと思う。あまりにも角界は内側にこもりすぎ、内側だけで事を収めようとしすぎている。稽古実態査察とか、抜き打ちで文科省あたりやってみてはどうだろうか。
 あるいは、学校のイジメと同じように、警察権力への訴えを被害者側がもっと起こすようにするか。