ディープインパクト引退  〜「伝説」の終焉〜

 有馬記念が終わって。1頭のスターホースが、現役を引退した。
 正直、オイラはいま、ほっとしている。寂しさやショックなんてものはまったくない。宮川一朗太卒業のほうがよっぽどショックだ。
 オイラは最後まで、ディープのみを追いかける新参の競馬ファン(ディープファン、と言ったほうが実態に近いだろうが)の言動や行動には、あまりいい思いを持てなかった。彼らのほとんどは来年以降競馬を見ることはないだろう。にわかとはそういうものだとわかってはいるが、ディープだけでは競馬の魅力の百分の一も詰まっていないということがわからないまま今年の競馬が終わってしまったのは、ただ残念である。
 結局、オイラと彼らディープファンに間にこれほどの隔絶ができてしまったのは、ただオイラがディープをそれほど好きになれなかったというところに拠るのだと思う。
 ディープインパクトは、つまらない馬だった。
 何度も自分の喉もとに食い下がってくるようなライバルもおらず。逆境から立ち上がっていくようなドラマもなく。あっと驚くような戦法を取るのでもなく。最初から終わりまで一番人気で、ただ強かっただけ。
 もちろん、競馬は「競争」なのだから、強いことにこそ最大の価値がある。弱い馬は食肉加工されて終わりで。勝たなければ明日はない。
 しかし見ている者にとっては必ずしもそうではない。本来、人は勝利それ自体にではなく、勝ちかたの中身にこそ興味を持つものだと思う。大きくまとめて言ってしまえばそれは「ドラマ」ということになるんだろうが。
 以前にも言ったが、ディープには致命的にドラマが欠けていた。せめて海外を何戦も転戦して、世界の強豪と勝ったり負けたりしてくればまだよかったのだろうけど。一度きり、ロンシャンを走ったのみで、しかも人為的ミスにより失格というくだらない結末に終わってしまった。
 ある意味、不幸な馬だったと思う。敵がいなさすぎて、いつも順調で、闘志を燃やすようなこともほとんどなかっただろうから。
 そういう意味では、ただ強いだけでも応援してくれた人が山ほどいたということが、彼にとって唯一の慰めになっていたのかもしれない。鬱陶しいだけに思えたディープファンにも、ちゃんと価値があったということだ。
 まあその強さの次元については、今後いろんな人によって語り継がれていくことになるのだろう。わざわざオイラが記憶しないまでも。願わくば、来年以降の競馬はドラマティックになることを期待したい。