「火目の巫女」3巻(杉井光/メディアワークス)

火目の巫女〈巻ノ3〉 (電撃文庫)

 さあて、なにから話しましょうか。やっぱり人物的なことから話さないとだめかな。
 実は今回、3巻を読み終えてすぐ、杉井さん本人にチャットで確認をとりました。『3巻で一番変化したのは、豊日でいいんですよね?』と。
 なんでこんな確認作業をいちいちしたのかと言えば、確定させたかったからです。火目は2巻以降、オーソドックスなつくりから外れているということを。
 この話はですね、はじめから視点者が複数いることが前提になっているんですよ、もう。1巻こそほとんど伊月視点というオーソドックスなつくりでしたが、2巻以降はそれではつくりきれないとなったのか、シリーズの主人公でない佳乃や豊日の視線がバンバン入ります。それはつまり、変化者が伊月以外であって、その変化を書くのに伊月視点ではできないということだからなのですが。
 ひとつの話のなかで、一番変化する人を視点にいっさい据えないというのは難しいんですね。ふむ。

  • 千木良による儀式(全体の印象を決める前フリ)
    • 御明かしの名前を覚える気のない豊日。
  • 霞の骨盗難→解決を命じられる(発端)
  • 紅い雪。降神開始(儀式の承?)
  • 千木良、桐葉を殺そうとする。儀式の全容の露見(人は化生になるという印象の前フリ)
    • 柱を立て(分霊)、茜を殺す道を採用する→牢の鍵は開けておき、茜に選ばせる(社会が滅んでも構わない、という思想)
  • 長谷部邸。火神信仰。常和の火目式に降神の秘密があったと知る(千木良を倒せばいいみたいな物語ベクトルからの、転換)
  • 伊月、化生化して楼に入る。火之神を内に受けて灼箭を放ち、世界に湧いた化生を消す。
    • 御明かしが化生に落ちないように、名前をずっと呼んでやってた豊日。霞を殺したときの記憶(および、哀しかった感情のもろもろ)を完全に思いだした結果、(同じ哀しさを味わいたくないから)積極的に御明かしたちを助けようとした?

 黒丸は大筋、白丸は豊日関連ですが。
 コンセプトは、「観宮呼火命の降臨を抑えて、世界の危機を脱する話」かなぁ。杉井さんの上手いところは、人物の変化とはべつにこうしたイベント主体の筋/軸をちゃんと立てているところです。活劇として読めるように。いや、考えてみれば当たり前のことかもしれないんですけど。むしろ俺が心主体で考えすぎなんだよ。
 こうして見ると、「フリ」とか「伏線」がものすごくはっきりしてますよね。杉井さん自身が「伏線ははっきり書かないと伝わらない」と言っておられましたが、まさにそれを実行しているというか。
 まあでも、中身に関しては……うーん。最大に気に入らないのは、千木良がただの空っぽキチガイ狂信女だったことですよね。なんかもっと中ボス的な感じになってくれるのかと思ってたら、完全ザコというか。ガクッときたというか。もし、常和の火目式の話がなくて、千木良を倒せば話が終わる感じだったら、もっと中身のある敵になってたんでしょうけど。ある意味、後半の展開のためにさっさと殺されるべく、中身空っぽになった気はしないでもない。
 燃えがないとかいろいろ言われていましたが、今回の後半は、俺、案外楽しめました。まず伊月が化生化して楼を登っていくというくだり。異形の血の受け入れってやっぱり好きなんですよ俺。小学生のころの、もし自分がこの世界の人間ではなかったらという妄想そのままに生きてますので(笑)
 あと、常和の骸と相対させたこと。これは背筋ブルっときた。1巻の鬱展開だけでもアレだったのに、いまさら忘れたころに追い討ち攻撃ですから。一度効いたコースをちゃんと突いてきているというか。
 伊月が呼火命を受けて死ななかったという巨大な伏線が今回は出てきましたし、次巻はその問題にいくのでしょうかね。次巻……出ますよね?(ドキドキ)