「19歳 一家四人惨殺犯の告白」(永瀬隼介/角川書店)

19歳 一家四人惨殺犯の告白 (角川文庫)

 押し入った家で一家四人を殺害し、犯行当時未成年だったにもかかわらず死刑宣告を受けた男を取材し作成されたノンフィクション。その文庫版。
 どうでもいいけど、文庫落ちの際の加筆訂正って小説に限った芸じゃなかったんですね。オイラはあまり加筆してほしくない派なんだけど。コレクターズ魂に引っかかってしまうから。ってか金が(以下略)


 正直、オイラの求めていたものとはずれていた。序盤における、胸糞悪くなるほどの濃密な暴力描写は、おおいに参考になるところがあったけれど。あまりエキセントリックな事件ではなかった。
 虐待と貧乏にまみれた幼少時代を過ごし、荒んだ少年として成長し、高校中退、そのまま悪の道まっしぐら。で、ついには殺人。
 こういう言いかたは問題があると思いますが、これってステレオタイプの犯罪なんですよね。 殺人という「結果」に至ったことに、ある程度の納得ができてしまう。こんな生い立ちのやつなら、人を殺してもしかたがないな、という。


 酒鬼薔薇というインパクトのあとでは、こうした残酷な事件でさえ、「普通の凶悪犯罪」に見えてしまいます。いたって普通の家庭の息子で、非行歴はなく、しかしていきなり大量殺人を思いたち実行する。そのうえ、あの手紙に代表される幼稚な演出、犯罪心理。そこににじみ出る愉悦。怨嗟でもなく物品欲でもなく、享楽を理由に人を殺せたということ。享楽という達観した位置から、学校というシステムに挑戦状を叩きつけたこと。
 酒鬼薔薇の心理というのは、どことなく「セカイ系」を想起させるものだと、オイラは考えています。
 他者を介在させず、誇大した自我がそのまま世界とリンクするかのような妄想感覚を、一連の行動に感じてしまうんですよね。
 地べた感ではなく、高みから人を殺すようなところがあったからこそ、のちのち多くの少年らに影響を与えられたと思うんです。
 そこへいくと、この本における犯人は金銭欲と支配欲という、地べたのルールで行動していて、それはやっぱり「普通の凶悪犯罪」だよなぁという感じがするわけで。


 まあどうでもいい話ですね。酒鬼薔薇セカイ系の件は、おそらくエヴァあたりを絡めることでこれまであちこちで語られてるはずだし。いまさらな話でもあります。