昨晩は、夜中3時に外出しました。
 夜半の空気はしんと冷えて、音は己のほかにはまるでなく。タバコの煙にむせる自分の咳にさえおびえながら、肩を抱いて、人なき世界となった見知った街なみを歩きました。
 目的の場所に着いてすぐ、僕は北東の空を見上げました。夜空はすみわたっていて、カシオペアのダブリューがくっきり見えました。
 小船のようなうすい月と明けの明星、それからぎょしゃ座の恒星カペラを頼りに、目あての空を探しました。すぐに、見つけることができました。
 そうです。僕はペルセウス座流星群を見に出かけていたのです。
 タバコを吸いながら5分ほども待って、その瞬間はおとずれました。
 夜空を切り裂くような閃光の筋が、僕の頭上を行き過ぎていく。
 一瞬の出会いでした。
 あれほど焦がれていた流れ星との出会いは。前ぶれも残滓もなく。ほんの1秒にも満たない邂逅でした。
 そのまま僕はしばらく、首の痛みも忘れて星のなみだを楽しみました。
 涙滴のようにふくらみをともなって、流れていく星。僕はおはなしのなかでさかんに、ロマンチックに語られる流れ星なる存在にあこがれを抱いていました。それが叶ったことが、ただ純粋にうれしくてうれしくて。僕は時のたつのも忘れて、まだ会いたい、まだ会いたいとばかりにその場にい続けました。


 4時半にもなって、いいかげん寒さがこたえてきたので僕は引き上げました。
 帰り道、冬の星座であるプレアデスやオリオンが東の空低くに昇っていることに気がつきました。
 人生で初めて夜明かしした少年が、夏にオリオンに会えることに気づいて感動する――とかに使えるななどと思いつつ、僕はタバコを側溝に投げ捨て家に入りました。