ライトノベル完全読本 (日経BPムック)


 ネットで注文した「ライトノベル完全読本」が届く。


 すでにネット界隈の方々で言われていることですが、やはり冒頭の「書評宣言」には首を傾げざるを得ません。
 べつに作家の多数が、文壇での正当な評価なるものを求めているのなら、まあどうぞそういうものを目指してくれちゃっても構わないんですが……少なくとも、(へたれではありますが)書き手のひとりである自分としては、そんなものほしいとは思いません。ひとりの識者の絶賛なんかより、多くの読者の感激がほしい。


 「文壇で正当な評価をされ」たがっているのは、むしろコアな読者層なんじゃないでしょうか。オレみたいなコアな本読みがいいと思ったんだ、ジャンク扱いはおかしいだろムキーって感じの。自分の自尊心を埋めるために、自分がいいと思ったものに権威を求めてしまっているというか。権威で心を埋めたところで、しょせん自分のものではないので、あとから剥がれていくだけなんですけどね。


 昨今のライトノベルへの言及文脈は、どこか新しいサブカルを見つけて浮かれている感じさえします。正確に言うと、既存のサブカルに新しい波が起こって、新しいサブカルに見えているだけなんだけれど。新しい波ってのはつまり、ラノベと一般を往来する者の増加ですね。
 いやまあそもそも、サブルの対義語であるところのメインというものがあるのかどうか、大変疑わしいんですけど。だって対義ってことは、メインのカルチャーってずっと飽きられないで全地方全世代の国民的コンセンサスを獲得しているカルチャーってことでしょ? そんなもんどこにありますか?


 カルチャーなんてものはサブもメインもなくて、ただ並列にいろんなものが林立しているだけだと思っています。そこから俺たちは、自分のアンテナに引っかかったものをいくつか選んで拾いあげている。そういうもんじゃないでしょうか。
 ラノベはまあ確かに、若年層限定文化という意味で「サブ」カルかもしれません。でもそれゆえにサブカル扱いされることは、べつになにも不当なことではないんです。
 だのに、ムリにそれを権威化しようとする人がいるようで。権威づけの次に待っているのは権威にもとづく定義論ですからね。そのままいくと、SFと同じ破滅を歩まないとも限りません。
 だいたいこの本でおかしいのは、アンケート層で一番多いのが20〜24歳だっていうことです。ネットで取った以上しかたないとはいえ、実像をまったく反映しとりゃしません。10代の、もっとライトな層が下支えしていることを、もうちょっと本のつくりとして意識してもよかったのではないでしょうか。


 長々と批判ばかりしていますが、実はこういう俯瞰的な視点でラノベを見ようとする本が世に出てくるようになったことは、単純にうれしかったりします。ラノベを語る視点というのがなかなか雑誌なんかではなくて、必然、ラノベを語る世界の主流はネットがウェイトを占めてるんですが、ネットだと個人的なことを中心にみんな語るので、どうしても地べたからのものが多くて。
 あと、各レーベル編集者への一堂インタビューは賞賛されていい企画です。こういうのがもっとほしいんですよ。読者と書き手を仲介する現場にいる編集者の視点、というものが、どうも業界の外の世界にはなかなか伝わってこなくて。
(余談としては、放電映像氏が男性というのに驚きました……絵柄ではもはや判断できない時代に突入か)